緑風渚の引き出し

若干ひねくれた社会人男性が24年の人生の中で思いついたことを書き残してます。

(未定稿)義務教育レベルを教える私立大学は不要か(Fラン大論争)

 非常にタイムリーなネタなので、本来はもう少しじっくり考えて書きたいのだが、ひとまず、考えを殴り書いていく。

 発端は、4月15日の財政審の資料である。タイトルは「活力ある経済社会の実現・安心で豊かな地域社会の確立(財政各論Ⅰ)」なのだが、労働・人的投資の節で、「人口減少と私立大学の定員」「教育の質の実態」「修学支援と教育の質」などのページがあり、簡単に言えば「義務教育レベルを教える定員割れ私立大学に補助金は出せないし、修学支援の対象から外すことも検討すべきではないか」、もっとざっくり言えば「定員割れ私大は必要ないのではないか(規模の適正化?)」という整理・提言がなされていた。

 インターネット世論では賛同する声が多かったが、「Fラン大」不要論で卒業論文を書いた身として、これに論理的に反論したい(卒論では全くできなかった)。

 以下、卒論の内容の整理である。

 不要ではない理由として、

・大学進学は権利であり、保障されるべきもの(日本の高等教育の私費負担率は67%と高く、経済的理由で進学を断念するケースがあるため、全入ではない。また、地方に立地する小規模私大は地方での高等教育アクセスを保障している。)

・大学は教育機関であると同時に研究機関であり、(特に)文系博士学生の就職先(研究室)になっている

中等教育以前の学習で躓きのある学生の学びなしの機会になる

・大学に行くことで、生涯年収が上がり、社会への還元率も高い

・「勉強」ではなく「研究」に触れる機会になる

 ことを挙げ、 不要論が出る理由として、

・大学に学力選抜機能を求めており、大学での教育に価値を置いていない(フィルター機能を求めている)

中等教育を修めた者が受けるものが高等教育であるという考え(エリート大学観)

 と整理した。

 また、議論をするうえでの指摘として

・定員割れ私大の実情は多様であり、定員割れを理由にひとくくりに議論することは限界がある(実態を精査する必要がある)

・本来高等教育は無償であるべきなのにもかかわらず、日本は戦後の高等教育アクセス拡大の際に、国立大学ではなく、私立大学を拡大させることで大学の大衆化を達成し、給付型奨学金制度も整備されていないという歴史的経緯がある

を挙げた。

 最終的には、「高等教育とは何か」「高等教育とはどうあるべきか」という議論であり、大いに価値判断を含むテーマになる。また、どの視点(学生、保護者、教員、企業、国、地方など)から議論するかによっても結論は異なると思う。そのため、不要論への反論を論理的にできたとしても、議論が平行線になることが考えられる。性善説に立つか、性悪説に立つかという信教の違いによるもので、議論が終わってしまう。

 ただ、目先のことで判断するのではなく、この問題が生まれた構造、歴史的経緯、そして、50年後、100年後を見据えて、この国にとってプラスになりえる判断なのかどうかを考えてほしい。もちろん、財源が限られていることもわかっているが。

 

 個人的には、学生に義務教育レベルが身についていないことは、定員割れ私大のせいではないのに、定員割れ私大が悪いとされていることに憤りを感じる。また、「頭が悪い奴は大学なんか行かずに、単純労働してればいいだろ」という発想で、大学進学を選ばれし者だけが受けられる特権として扱うのは、特権層の傲慢さを感じる。無償化されていればまだしも、家庭の経済力によって選択肢が大きく左右される中で、現状を追認することは、格差を追認することであり、不正義だと思う。

 グローバル化し、複雑化していく社会で、民主主義を成立させるために、良識ある市民を育成することは社会の責務であるし、皆が大学に行って学ぶことができれば、もっと社会は良くなるのではないだろうか。

 よりよい社会のために、大学は何が出来るのか、大学とはどうあるべきか、歴史的視点、海外比較、労働市場との関係、社会階層・経済的格差、など様々な視点から分析されるべきで、それが高等教育論的視点になるのかもしれない。素人でも偏見や感情論で様々なことが語れてしまうこの分野で、いかに専門性をもって語れるかが大事かもしれない。

 今回の結論:定員割れ私大が不必要かどうかは、目指す社会像による。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/20250415zaiseia.html

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20250415/01.pdf